概要
約1000年前、巨人の大陸で繁栄していた6つの種族(後のドラゴン種族)たちは、魔術と共に自らが生み出した神々の破滅に曝され、巨人の大陸から遠く離れた小島(後のキエサルヒマ大陸)へと落ち延びた。
種族の中でも最も強大な魔力を持っていたとされる6名の始祖魔術士は、その総力を結集して神々が通ることのできない論理の限界を設定した障壁「アイルマンカー結界」を築き、キエサルヒマ大陸全土を覆った。これによりキエサルヒマ大陸は外界からの干渉を完全に遮断し、世界から隔絶された。
始祖魔術士は大陸の中心部に築いたドラゴン種族の聖域のさらに深奥に配したアイルマンカー玄室に篭城し、以後1000年もの間、結界を展開し続けることのみに注力した。
綻びと破綻
ところが、アイルマンカー結界はその大きさに対してキエサルヒマ大陸の面積の方が僅かに大きいという誤算があり、そのため結界には常に小さな「綻び」が生じていたことが発覚した。ドラゴン種族を追ってキエサルヒマ大陸に襲来した女神ヴェルザンディは、その結界に開いた僅かな穴を見逃さず、その隙間から下僕の魔獣を幾度も結界内に送り込み、その都度、大陸では熾烈な戦いが巻き起こった。
そして300年前、ついにヴェルザンディ自身が結界の隙間を通り抜けることに成功し、キエサルヒマ大陸への降臨を果たした。キエサルヒマ史上最大規模の戦いとなった女神とドラゴン種族の決戦は、始祖魔術士の一人である天人種族のオーリオウルが女神を結界の外へと退け、さらに結界の綻びを自らの体で埋めるという捨て身の機略によって終結したものの、ドラゴン種族はアイルマンカー結界のはらむ欠陥が致命的なものであることを認めざるを得なくなった。また、オーリオウルと精神を共有する天人司祭イスターシバは、いずれ結界が決定的な破綻を迎えるであろうことを予見し、その対応策を講じ始めた。
縮小計画
時は現代に移り、キエサルヒマ大陸への侵攻に執着し結界の狭間に留まり続ける女神ヴェルザンディと、極限の状態でかろうじて均衡を保っていたオーリオウルだったが、キムラックの動乱が呼び水となってとうとう死に至った。術者を欠いたアイルマンカー結界はいよいよ不安定なものとなり、ヴェルザンディは聖域の直上に新たに出現した結界の綻びから最後の侵攻を開始した。追い詰められた始祖魔術士たちは、結界の範囲を「必要最小限」、すなわち彼らが篭るアイルマンカー玄室の大きさにまで縮小させることで綻びを無くし、自分たちの身の安全だけでも確保するという危急案を立てた。
これを知った聖域の司祭たちは、結界の縮小範囲を「聖域全体」にまで広げるよう始祖魔術士に直訴を企てた。始祖魔術士たちが頑として開こうとしない玄室の扉をこじ開けるため、司祭はドッペル・イクスを聖域外に遣わし、大陸中に散らばる天人種族の遺産の回収を急いだ。
また、最接近領の領主アルマゲスト・ベティスリーサも、聖域の計画と内紛の情報を掴んでいた。人間種族の守護者として生み出された存在であるアルマゲストは、聖域を除く大陸全てを切り捨てるに等しい結界縮小という計画そのものを阻止するため、聖域との抗争を開始した。アルマゲストは、女神と対立する唯一の神とされる魔王スウェーデンボリーを外界より召喚し、その力を借りて女神を退けた後、結界を完全なものへと再構築するという望みに賭けていた。
結界の崩壊
予言された滅びの時まで残すところあと数日と迫る中、聖域の第二世界図塔においてスウェーデンボリーの召喚の儀が実行され、その力を継承したオーフェンは、約1000年もの間何者の侵入も許さなかったアイルマンカー玄室の内部に到達した。オーフェンは始祖魔術士たちの悲痛な懇願を無視し、魔王の力を以ってアイルマンカー結界を内側から完全に消し去ってしまった。世界にありのままの姿を晒け出したキエサルヒマ大陸は、神々に対して全くの無防備な状態となってしまったが、結果的に始祖魔術士たちが恐れていた破滅が訪れることはなかった。
考察
オーフェン曰く、アイルマンカー結界の存在こそが、女神がキエサルヒマ大陸をつけ狙う要因(目印)になっていたという。アイルマンカー結界とは「完全な安全」すなわち「停滞」を求める意思である。「変化」の化身である神々は、その本質故に停滞することを許さないため、結界が存在する限り、それをこじ開けようと大陸に襲来し続けることになる。また、停滞を極限まで突き詰めて「死」に至ることを避けるため、結界はその大きさに関わらず必ずどこかに穴が空くため、神々の襲来を防ぐことはできない。つまり、結界そのものを取り去らなければ、大陸が絶望から解放されることは無いという真相にオーフェンは至った。