概要
キエサルヒマ大陸内における森羅万象の情報が蓄積される記録の集合体。チャイルドマン・パウダーフィールド曰く、ネットワークそのものは高々度の白魔術によって形成されていると考えられるが、術者や媒体が存在せず、自律的に稼働しているという点で魔術ではないとも言える[1]。
ネットワークはキエサルヒマ大陸の中で起こるあらゆる事象をリアルタイムに記録し続け、本来は一方向性(過去から現在)を持つ情報の流れを全て等しい立場へと変える。「管理者」と呼ばれる、ネットワークにアクセスする技術を会得した者は、累積された過去の情報を現在の時制として「再生」することを可能とする[2]。例として、特定人物の履歴調査や、遠隔地の監視、距離や時間を超えた通話などを行うことができる。ネットワークを通じた情報分析の計算速度は、時に現実の時間をも凌駕することがあり、それは未来予知にも等しくなるという。
一方で、ネットワークは万能の道具ではないとも指摘されている。ネットワークの有効性は管理者の技量に左右されるが、根本的な問題として、ネットワークから流れ込む膨大な情報量に対し、一個の人間が持ち得る処理能力には生物的な限界が存在する。そのため、管理者がネットワークのある一点の情報に傾注すると、それ以外の全てが手落ちになってしまうという欠陥をはらんでいる。
ネットワークがいつ、誰に、どのようにして設置されたのかは判然としていない。約1000年前に銀月姫率いる地人種族とドラゴン種族の間で起きた戦争の記録が残っていることから、その当時から既にネットワークが存在し、作動していたことは確かである。
後の研究では「精神現象下ネットワーク」と呼称され、「白魔術が存在することの証明として存在する現象」と説明付けられている。また、原大陸にも同様の現象が存在することも確認されている(後述)。
ゴースト現象
ネットワークは誰にも制御されていない不安定な魔術のような存在であるため、しばしば齟齬が発生し、局地的な暴走をきたすことがある。ネットワークの暴走は、「過去の情報を一方的に具現化する」という現象として表れ、これは「ゴースト現象」と呼ばれる。
ある場所でネットワークに齟齬が生じると、その時点で齟齬範囲内に存在する人間の無意識下にある記憶を無作為に抽出・再生し、その人物にとっての「幽霊」(ゴースト)を生み出す。ゴーストはあくまで過去の情報の残滓に過ぎないが、それらは物理世界にも影響を与えるほどに現実感を持っている。つまり、幻であるゴーストが人間に物理的な危害を加えるという危険もあり得る。
ゴーストはダメージを与えることで形を失って消滅するが、現象の核心となっているゴーストを取り除かない限り、同様のゴーストが無限に発生し続ける。暴走したネットワークを完全に正常化させるためには、ゴースト現象の中枢を発見し、速やかに消滅させる以外に方法は無い。
ダミアン・ルーウのようにネットワークを操る技術を極めた術者であれば、意図的にゴースト現象を発生させ、あたかも過去の人物を現在に「召喚」するように見せかける幻術も可能となる。
原大陸のネットワーク
ネットワークはキエサルヒマ大陸のみならず原大陸でも同様の現象が存在することが確認された。戦術騎士団はより迅速かつ実用的に運用できるよう研究を重ね、『第四部』時点では通信手段として活用している。しかし単純に便利とも言い切れず、交わされる情報は常に曖昧であり、相手との相性によっては思わぬ誤解が発生したり、全く逆の情報が伝わる可能性も生じてくる。
『原大陸開戦』では白魔術の精神支配の応用として、ラッツベインとエッジが互いの交信を緊密にする事で両者の五感と認識を極めて高いレベルで共有する同調術を使用した。しかし、両者の相性によっては使い魔症状のような意識の混濁が起きる可能性もあり、誰にでも出来る代物ではない。現時点で極めて高いレベルで共有しながら副作用の心配もなく運用できる術者はラッツベインとエッジの二人だけであるが、その二人もネットワークの扱いに長けた白魔術士である妹ラチェットの補佐がないと無事では済まない。