概要
約200年前、貴族内革命によって王家を廃し、王権を手にした貴族連盟は、キエサルヒマ大陸を統治する権利と義務を負うこととなった。貴族連盟は大陸に居住する全大陸民の生活安全の保証を宣言し、大陸全土の平和を恒常的に維持する統治政策として「王立治安構想」を打ち出した。
この構想を実現するための主軸となる組織として騎士団が設立された。騎士団は、騎士軍、派遣警察、王権法廷の三本柱によって構成される一大司法組織であり、貴族連盟はこれを実効力として大陸全土の犯罪や紛争、反社会活動を取り締まった。
宣言
大陸における人間種族は生活を保障され、自然死を迎える権利を得ている。
体制
王立治安構想は貴族連盟による連帯合議制の貴族制政治が執られている。国家元首たる王は存在しないが、連盟に加盟する貴族が持ち回りで代表を勤めている。
大陸統治は中央集権的に執行されているが、トトカンタやアーバンラマのような自治性の高い都市では各市の市議会によって地方行政が賄われ、それよりも小規模の町村などでは、中央から派遣される管理官によって治安が監督されている。
キエサルヒマ大陸における全ての土地は、貴族連盟によって統治されている。かつては土地の地主である「領主」が各所領を治めていたが、貴族内革命以後は大陸全土の土地の解放および国有化が行われた。これにより、土地はそこに住む全ての人民のものであると定められた。
また、王立治安構想に与する都市は軍事力を持つ必要が無いという建前上、法令によって軍事組織を持つことが禁じられている。アーバンラマのように自治性の高い都市になると独自の自衛組織を組織しているが、法令上あくまでも自警団程度の規模に留まっている。
人間種族が立ち入ることのできないフェンリルの森と、地人種族の独立自治領となっているマスマテュリアに関しては、貴族連盟の統治計画からは除外されている。また、純血の人間だけが入都を許されるキムラック市も実質上、キムラック教会による治外法権が黙認されている。それ故にかつては独自の軍隊を保有していた時期があったが、砂の戦争の戦後処理により解体させられている。
対聖域勢力「最接近領」は王立治安構想から独立している特別統治領であり、制度上は騎士軍の末端組織に位置付けられるが、その存在はいかなる公的な記録からも抹消されている。
実態
天人種族から王権を継承し大陸を治める者の義務として、大陸の平和と安全を恒久的に維持するために打ち立てられた統治計画だったが、大陸の全人民に対して貴族連盟への恭順を強いる法としての側面が強く、その妨げとなる可能性を孕んだ大陸魔術士同盟やキムラック教会、ドラゴン信仰者といった大勢力を危険視し、水面下で対立状態にあった。
反抗する者は容赦なく王権への反逆(王権反逆罪)と見なし徹底的に処断するという強硬な姿勢を取っている。これは大陸が存亡の危機に瀕し、聖域に攻め入って封印されていた装置を使わなければ滅亡を回避できなかったという不可抗力的な事情においても同様であった(オーフェンとプルートーを参照)。そのため、反体制を訴えて連盟の法から逸脱する主義者も少なくなく、キエサルヒマ内戦ではトトカンタ市やタフレム市が都市を上げて反旗を翻した。
来歴
発足して200年の間はリベラルに統治されていたが、赤光帝37年辺りから支配に陰りが見え始めてきた。大陸史上初めて自治を宣言した アーバンラマ市に続き、西部のトトカンタ市やタフレム市も自治性を強めていった。かつてはアーバンラマそのものに王権反逆の嫌疑をかけた事もあったが、キムラック市に幽閉されていた天人種族の始祖魔術士オーリオウルが死に瀕し、それに伴って暴走を始める聖域に対抗すべく最接近領に注力する必要があったため、西部に対し嫌疑をかける余裕がなかった。
しかし、長過ぎた支配は支配階級である貴族に特権意識の肥大化を促し、大陸の平和を維持するよりも自分達の支配を続ける事こそを優先するようになっていった。拳銃の製造と使用を事実上独占し、各都市の自治範囲を超えて犯罪を取り締まる派遣警察も各都市を監視する諜報組織の一面を見せるようになっていった。
王立治安構想を揺るがしかねない存在として、かねてから敵視してきた相手が魔術士であった。白魔術を独占するために白魔術士すべてを《霧の滝》に幽閉し、大陸魔術士同盟の力を削ぐために甘い餌を蒔いて数多くの魔術士を引き抜き、手駒として操るために宮廷魔術士《十三使徒》を設立した。だが、貴族連盟の内部にも王立治安構想の限界を予期していたものも少なくなく、宮廷魔術士も貴族に対して服従していたわけではなかった。崩壊の兆しを見せ始める中、運命の女神ヴェルザンディはアイルマンカー結界の綻びをかいくぐって大陸に乗り込もうとしていた。
王立治安構想の撤廃
結界の崩壊後、貴族連盟と大陸魔術士同盟の対立に端を発してキエサルヒマ大陸の各地で混乱が起き、情勢は一気に不安化した。王立治安構想の瓦解を恐れた貴族連盟による弾圧政策は裏目となり、アーバンラマ市では一部の資本家が大陸脱出を図って外大陸開拓計画を発足し、トトカンタ市は魔術士同盟に同調してタフレム市と共に貴族連盟への反抗を表明。アレンハタム市もこれを支援した。やがて、大陸を二分する大規模な内戦状態に突入した。
終戦後、反抗都市連合の制圧に失敗した貴族連盟は、王立治安構想の撤廃を余儀なくされた[1]。
リベレーター結成と原大陸
王立治安構想を放棄した貴族連盟はタフレムやトトカンタにもある程度の自治権を与えつつ新体制に移行した。しかし、一部の貴族には王立治安構想を復活させたいと密かに画策するものもいて、原大陸の乗っ取りを目論み始める。開拓公社を通じて足がかりを整え、魔術に代わる戦力を得るために放棄された聖域の発掘を秘密裏に推し進める。回収された資料の中にはクリーチャー技術のデータもあり、リベレーター結成の契機となった。その後、クリーチャー技術は秘密裏に研究が進められ、原大陸から渡ってきた魔王スウェーデンボリーによって技術革新が進み、実用化へとこぎ付けた。
原大陸で発生したシマス・ヴァンパイアの壊滅災害による混乱を突いて乗り込みを開始するが、想定外の事態が次々と発生したために失敗、母船のガンズ・オブ・リベラルは陥落し、総大将のヒクトリア・アードヴァンクルとジェイコブズ・マクトーンも討ち死、リベレーターは完膚なきまでに叩き潰される。これにより開拓公社は原大陸における利権をすべて失い、全面撤退を余儀なくされた。
概念図
脚注
- ^ 内戦中、ヒクトリア・アードヴァンクルとジェイコブズ・マクトーンの二人の貴族が王立治安構想の解体に動いている