魔術士
提供: オーフェンペディア
魔術士(まじゅつし)とは、魔術を行使する力を持った生物の総称である。多くの場合、天人種族から魔術の素養を受け継ぎ、その制御法を会得した人間種族の魔術士を指す。「ユグドラシル・ユニット」と呼ばれることもある。始祖魔術士はラモニロック。
目次
概要[編集]
魔術士という肩書きは資格や称号ではなく、生物種の分類を表す呼称であり、自らの意思で魔術を行使できる生物は無条件で魔術士と呼ばれる。従って、広義的にはドラゴン種族も魔術士に分類することが可能だが、現在の人間社会において一般的に魔術士と呼ばれるのは音声魔術を扱う人間種族の魔術士であり、その中でも特に黒魔術を操る黒魔術士が大半を占める。また白魔術を操る白魔術士は、黒魔術士を遥かに超える支配領域を持つが、その個体数は圧倒的に少ない。
幾度となく繰り返されてきた迫害を乗り越えてきた弊害か、必然的に魔術を唯一にして絶対の価値観として捕えがちになり、非魔術士に対して無意識に見下し、排他的になりやすい。また、個人の自制・自立を至上の理想とする一方、同じ魔術士として仲間意識を強要する傾向にあり、ベイジットのように魔術士社会の在り方に疑問を持つものから時折不快な感情を抱かれることがある。
ちなみに、『オーフェン』の世界においては「魔術師」とする表記は誤りである[1]。かまずに発音するには、心持ち「まじつし」と言うようにすると言いやすいらしい。
音声魔術[編集]
詳細は「音声魔術」を参照
歴史[編集]
魔術士の発祥は200年以上前に遡る。当時、キエサルヒマ大陸を襲った女神の下僕(魔獣)たちとの戦いの末、全ての雄を失っていた天人種族は子孫を残す術も失い、絶滅の危機を迎えていた。天人は種族の首長の立場にあった聖域司祭イスターシバの提言により、戦中に大陸に漂着して以来、友好な関係を築いてきた人間種族との「混血」を図った[2]。しかし、その結果産まれたのはドラゴンの血を引く「人間」に過ぎなかった。天人の生殖実験は失敗に終わったものの、その副産物として、魔力を感知し制御する力を血統によって受け継いだ新たな種族、現在の音声魔術士の祖となる半天人半人間が誕生した。
それからしばらく経ち、開拓公社から土地調査員としてラグナロク砦跡に派遣されたセグワ・オリンプス(後のラモニロック)は、アイルマンカー結界の狭間に押し留められていた運命の女神と邂逅し、強制的にシステム・ユグドラシルの一部に組み込まれてしまった。セグワは人間種族の始祖魔術士へと変容し、この瞬間に人間種族はドラゴン種族と同様に魔術を行使できる種族として覚醒したとされる。
始祖魔術士[編集]
上述の通り、人間種族の始祖魔術士はラモニロックとされていた。しかし後日談において、人間種族は常世界法則の現出によって実体化した「巨人」、すなわち神々と表裏一体を成すシステムの一側面であり、そもそもシステムに介入するための楔となる存在は不要であったことが明らかになった。これは、天人から受け継がれた素養さえあれば、始祖魔術士の有無に関わらず、人間種族は既にシステムに認識されているため魔術を行使可能であったことを示している。
天人種族との血筋[編集]
人間種族の魔術士は例外なく天人種族(ウィールド・ドラゴン種族)の血を引いていると考えられている。逆説的には、天人の血をわずかにでも引いていない限り、人間は魔術を扱うことができない。これは、魔術の力の根源である魔力を感知する能力が人間種族には生来的に備わっていないためであり、人間が魔術士に成り得るか否かは、生まれ持った遺伝子情報に左右されることを意味している。強力な魔術士の血を引く子どもには高い魔術の素養が備わることが多いとされ、かつて《牙の塔》では、優秀な魔術士の男女に子をもうけさせ、魔術士のサラブレッドを生み出そうと画策されていた時代もあったという。
成長過程[編集]
生態的に魔術を操ることができるドラゴン種族とは異なり、半ドラゴンである人間種族の魔術士が魔術を扱えるようになるまでには、およそ数年から十数年に亘る制御訓練が必要となる。魔術という新たな感覚を会得するだけでも通常5年はかかると言われている。魔術士の成熟過程には3つの段階が定義されており、まず第一段階で魔術という力を知覚可能になり、また自らもその力を扱えるようになる。第二段階では、その力を集中し、増幅できるようになる。一般的には、この段階をクリアすることで一人前の魔術士と認められるようになる。最終段階は、魔術士として独り立ちした後、魔術を使ってどのような業績を為したかが問われる。《牙の塔》では、優秀な成績や功績を残した魔術士を対象とした「上級魔術士」という称号が設けられている。
戦闘訓練[編集]
魔術士はカリキュラムのひとつとして戦闘訓練を受けている事が多い。それは、魔術士同士が魔術を使用して戦う場合、魔術の発動に要するタイムラグの関係から、相手の構成を読んで防御する時間があるため、容易に決着が付かないためである。
魔術士が戦闘訓練を受ける最大の理由は、魔術士狩り以降の被迫害時代を生き抜くためであった。まだ魔術士が誕生して間もなかった頃、絶対数が少ない上に経済的・政治的な後ろ盾もなく、恐れられ忌み嫌われていた魔術士が自身の安全を確保するには、自分達の戦闘能力を高めるしかなかった。特に黎明期は現代ほど魔術構成理論が洗練されてなく、戦闘方法もまともに確立されていなかったため、白兵戦の技術(特に素手による戦闘技術)は真っ先に取り入れられた。
しかし、魔術士の社会的地位が確立されてくると、血生臭い訓練はあまり意味を成さなくなり、教える学校によっては戦闘訓練を受けていない魔術士も多くなってくる。《牙の塔》では今も戦闘訓練が正式なカリキュラムに入っているが、それは昔からの慣習によるものであって、本格的に教えられる教師は少なくなってきた。逆に、本格的な技術を教える教師も存在しないわけではなく、危険な暗殺技術を教える魔術士も一部には存在する。
魔術士の社会[編集]
社会的地位[編集]
魔術士が与えられる地位や待遇は地域によって極端に変わる。魔術士の街であるタフレムは言うに及ばず、トトカンタやアーバンラマのような自治性の高い都市、宮廷魔術士《十三使徒》が幅を利かせているメベレンストなどでは一定の水準以上の地位が保証されている。
対して、アレンハタムに代表されるドラゴン信仰者の勢力が未だ強く根付いた土地などでは普通に生活することすら困難を極め、魔術士の根絶を唱えるキムラックに至っては発見されるだけで生命の危機にまで及ぶことになる。
大陸魔術士同盟[編集]
大陸魔術士同盟は魔術士による魔術士のための一大互助組織である。キエサルヒマ大陸に生きる全ての魔術士は同盟に帰属することを求められ、特に理由が無い限り除名されることはない。これは、かつて魔術士がキムラック教会やドラゴン信仰者によって強い迫害を受けていた暗黒時代、互いに助力し合い、組織として結束したことで危難の時代を生き延びることができたという歴史に由来する。
学府[編集]
タフレムの《牙の塔》と、王都メベレンストの「スクール」が、魔術士養成機関の双璧とされる。その他、各市町村で開かれている道場・教室の類や、個人で師匠についたり、独学のみで学ぶ者もいる[3]。古来より魔術士という人種は勤勉な性格として知られ、大陸における歴史や地理などの学術的分野において、他の組織よりも遥かに正確な記録を残している。特に、《牙の塔》などの権威ある学府で教育を受けた者は、魔術だけでなく一般教養においても高い水準の知識を修め、また、世間からもそう評価される。
その一方で、魔術士の修業は魔術の訓練や学問に偏りがちになり、魔術や学問以外の職業的な訓練は二の次になる傾向がある。優秀さを求められ評価される一方、魔術を必要としない分野(世渡り的な知恵や魔術以外のことで生活をするためのノウハウなど)になると逆に穴だらけで、能力を発揮できないケースが多々ある。また、魔術の成績が悪いと(それ以外の才覚はまったく評価されることなく)問答無用で落ちこぼれ扱いされるという弊害も生んでいる。
性差廃絶主義[編集]
性差廃絶主義(フェミニズム)は、黒魔術士のコミュニティの根幹を成す思想である。個人の自制・自立を至上の理想とする魔術士社会において、男女平等という理念はごく一般的な倫理的価値観として認識されている。さらに、度を過ぎた他者への依存は心の欠如と見なされるため、魔術士の街であるタフレム市には結婚という戸籍制度も存在しない。ただし、全ての魔術士がそうであるわけではなく、《牙の塔》内にも結婚主義者は少なからず存在する。なお、性差廃絶主義が広く定着したのは、東部への移民が起こった後のこととされる。
無信仰主義[編集]
魔術士は宗教を一切信じないとされている[4]。そのため、葬儀は祭司を置かない極めて簡素なもので、意味合いも「死者を弔う」というよりは「死者に別れを告げる」に近い。
無信仰である魔術士の特徴として神々や信仰を軽視しがちになり、キムラック教徒のような神論者からひんしゅくを買いやすい傾向にある。
原大陸の魔術士[編集]
遅れてきた開拓団を皮切りに、魔術士も数多く原大陸に移住を開始した。危険な開拓作業において魔術は非常に有用な手段であったため、確固たる地位を築くには時間がかからなかった。しかし、それによって生じた不平等や、魔術を嫌う土地柄で育ったキムラック人との意見の相違ゆえに、原大陸における魔術士の立場や待遇はキエサルヒマと大きく異なっている。
歴史[編集]
キエサルヒマ内戦が終結し、情勢が落ち着いてくると開拓公社も新大陸の開拓に乗り出し、多くの魔術士が海を渡った。しかし、魔術士を嫌うキムラック教徒が多数を占めていた先発開拓団との間に当然ながら対立が生じた。アーバンラマの外大陸開拓計画の第一人者であるオーフェンが両者を調停した結果[5]、魔術士の入植も許されたが、その時に生じた精神的な溝は新大陸の体制に大きな影響を及ぼす事になる。
原大陸の魔術士はすべてオーフェンの管理下に置かれ、自ら率先して危険な作業に従事する事を表明しなければ最低限の市民権どころか衣食住すら保障されなかった。『第四部』ではカーロッタ村などの一部地域を除いて、魔術士とキムラック教徒の共生が実現しているが、解決しなければならない問題は今も山積している。
社会的地位[編集]
『第四部』時点で原大陸における魔術士の地位が確立し、ラポワント市のようにキムラック教徒の多い街でも普通に生活できるようになった。しかし、魔術士の行動(街中における魔術の使用や組織だった行動など)には議会により大幅な制限が課せられている。戦術騎士団に所属する魔術戦士も例外ではないが、壊滅災害が発生した場合においては神人対抗措置執行判定の投票権を持つ判定員の判断により、一時的にこの限定を解除することができる。
原大陸では法整備が不十分なため、無登録(モグリ)の魔術士が多い。しかし、キエサルヒマ魔術士同盟とオーフェン・フィンランディとの間に協定が交わされ、スウェーデンボリー魔術学校が原大陸における魔術士の保護を委託されるようになってからは少しずつ改善されてきている。
学府[編集]
ラポワント市にある「スウェーデンボリー魔術学校」が原大陸唯一の公的な魔術士養成機関となっている。遅れてきた開拓者が入植して約10年、魔術士に対する風当たりがひとまず落ち着いてきた頃にオーフェンが校長となって開校された。
ラポワント市は反魔術士感情の強いキムラック教徒が市民の多数を占めているため、学校の事務・運営は全て非魔術士が行っている。開校からわずか10年近くで《牙の塔》や、かつての王都の「スクール」と並ぶ地位を確立しているが、普通の学校としての側面も持ち合わせており、非魔術士の生徒も在学している。
スウェーデンボリー魔術学校以外に、各都市・開拓村にも魔術を教えている道場・教室が存在するはずだが、反魔術士感情の強いキムラック教徒が多数を占めている原大陸では大っぴらに開いている所は少ないと思われる。また、原大陸では未だ無登録(モグリ)の魔術士が少なくないため、個人で師匠についたり、独学のみで学ぶ者も多いと思われる。
魔術戦士[編集]
原大陸において、戦闘訓練を受けた魔術士は「魔術戦士」と呼ばれる。これは「全ての生徒が戦闘訓練を強制される必要は無い」というスウェーデンボリー魔術学校の教育方針によるものだが、同時に壊滅災害に対処するための人材を確保するためでもある。
スウェーデンボリー魔術学校では、魔術戦士過程を志願した生徒は卒業後に資格を手に入れ、戦術騎士団の審問を受ける。魔王術の適性に関係なく志願したものは全員騎士団に所属し、神人種族やヴァンパイアとの戦いに従事する事になる。
詳細は「戦術騎士団」を参照